新規事業の創出はスタートアップのような身軽な組織でしか難しいのでしょうか?大企業に所属しながら事業創出をするのは組織の制度やルール、文化が既存ビジネス目線のため、イノベーション活動そのものの管理が非常に難しいなと感じています。
おっしゃる通り、歴史のある大企業ほど新規事業を創出する事業企画のプロセスはあまり馴染みのある取り組みではないかもしれませんね。
ただ、このような大企業に対してイノベーションの実現を促すための国際標準規格であるISO56002(イノベーション・マネジメントシステム:略してIMS)というものができました。国際規格ですので今後主流になってくると思います。ここではIMSの枠組みを利用しながら組織の中でイノベーションをマネジメントする方法について解説します。
新規事業開発の立ち上げプロセス ISO56002:イノベーション・マネジメントシステム(IMS)とは
大企業のような既に成熟した既存の組織が、組織的にイノベーションを創出することを目的として2019年7月に発行されたのが、ISO56002で定義されているイノベーション・マネジメントシステム(IMS)です。世界で初めてイノベーションを管理する枠組みが定義されました。
ISO56002ではイノベーションにはいくつかの特徴があると説明されています。
- 一部のプロセスの速度を上げる
- 非線形的な順序を取る
- 反復的である
- 組織内の他のプロセス内において、または他のプロセスとは独立に実施される
- 組織内の他のプロセスと繋がっている
- 機会に関する意図
- 組織の状況
- リーダーシップ
- イノベーションのプロセス(機会の特定、コンセプトの創造、コンセプトの検証、ソリューションの開発、ソリューションの導入)
- 支援体制
- イノベーションによる価値
上記がイノベーション・マネジメントシステム(IMS)の枠組みですが、今回注目したいのは青枠で括られているイノベーションのプロセスの部分となります。この領域はオペレーションを表現している部分になりますので、本記事がテーマにしているイノベーションを業務の中で管理する枠組みそのものを表します。
ちなみに、経済産業省においても、このISO56002をベースにした、日本企業におけるイノベーション創出のための行動指針をまとめ、2019年10月に発表しています。
日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191004003/20191004003-1.pdf
新規事業開発の立ち上げプロセス ステージゲート法とは
続いてステージゲート法ですが、ステージゲート法とは新規事業開発などにおいて、アイデア創出から事業化までを管理する考え方です。
ステージゲート法では、事業の創出プロセスを複数の「ステージ」に分割し、次のステージに進むにあたり、一定の要件がクリアできているかを評価する「ゲート」を設置して管理します。
ステージゲート法は採用している組織によって微妙に表現は異なりますが、ここでは有名なロバート・G・クーパーのステージゲート法を紹介します。
民間の取り組みですとリクルートやサイバーエージェントのステージゲートが有名ですね。
以下にステージゲート法で出てくる言葉の定義を紹介しておきます。
ゲート
ゲートとは、プロジェクトを評価し、意思決定するための場であり、ステージゲート法のアイデアから市場投入までのシステムにおいて、重要な承認・中止の意思決定をするポイントである。
ゲートキーパー
ゲートキーパーとは意思決定を行う経営陣であり、開発の対象として最もよいプロジェクトを選ぶ責任を持つ経営資源のオーナー。承認された経営資源をプロジェクトチームが受け取る事を保証する立場にある。
ゲートキーピング
意思決定を管理する一連のマネジメント活動、手続き、ルールである。この活動によって、プロジェクトチームはプロジェクトを迅速かつ効果的に市場投入まで推進する事ができる。
ISO56002に準拠した事業企画のステージゲート管理
これまで紹介したような規格やフレームワーク、他社事例などをミックスさせる事で大企業の中でも適用可能な事業開発・事業企画の管理プロセスが定義できると思います。導入しながらも使い勝手の悪い部分などは柔軟に見直しながら組織に最適な仕組みに繋げていただければと思います。
左の見出しがISO56002のプロセス、右側がステージゲートの考え方という見方をして下さい。
- 機会の特定ステージ1 アイデア検証
最初のステージはアイデアを単なるアイデアではなく他人が理解できる状態に整理するステージになります。
リーンキャンバスの「課題」「顧客セグメント」「独自の価値提案」あたりをまとめるステージです。 - コンセプトの創造ステージ2 課題・ソリューションの検証
顧客の課題やニーズを徹底的に深堀します。アンケートやインタビュー、エスノグラフィーなどを駆使してリーンキャンバスを完成させます。
次のステージではPoCになりますのでMVPキャンバスを作成します。 - コンセプトの検証ステージ3 コンセプト検証(PoC)
MVP(Minimum Variable Product:実用最小限の製品)を開発し、仮説検証を実施します。
次のステージへは資金調達や投資を経てサービス開発をするステージになりますので、事業計画書を作成します。 - ソリューションの開発ステージ4 ソリューション開発
ソリューションを市場に投入しながらも市場に受け入れられるソリューションにするため、拡張を繰り返しながら「プロダクトマーケットフィット(Product Market Fit):PMF」を目指します。
ここからはかかるコストも大きくなってきます。 - ソリューションの導入ステージ5 事業化
よりスケーラブルにサービスを拡大し、新規事業の既存事業化を図ります。
ステージゲートの運営をしていたり、ステージゲート管理をしている事例を見てきましたが、ステージ1やステージ2であまりにも資料(アウトプット)を求めるような運用をしている事例が多く見られました。私はステージ1やステージ2ではあまりアウトプットを求めすぎるべきではないと思います。資料作りに追われ、肝心のビジネスの仮説やビジネスモデルをブラッシュアップしていく時間がそがれてしまいますので、審査向けの資料作りはリーンキャンバスを利用するなどの工夫で、ほどほどにするのがポイントだと思います。
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