イノベーションを起こす上で必要となる基礎スキルとして、デザイン思考というものがあると聞きました。
いわゆる商品などのモノのデザインをイメージするのですが、それとは異なるものなのでしょうか?
デザインという言葉には色々な意味が含まれています。モノを作る事に限らず、仕様や計画、活動なども含めて創造的な行為を行うことを「デザイン」と呼びます。このようなデザインの広義の考え方が創造や革新には必要であると考えられ、人間中心のデザインに基づきイノベーションを起こすための発想法として提唱されている考え方がデザイン思考となります。
デザイン思考(デザインシンキング)とは
最初にウィキペディアの定義を見てみましょう。
デザイン思考(でざいんしこう、英: Design thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である
Wikipedia
上記ではわかりづらいですが、デザイン思考とはデザイナーを対象としたものだけではなく、非デザイナーも対象とした、人間中心デザインに基づいたイノベーションを起こすための発想法を指します。
これでも少しわかりにくいと思いますが、要はゴールや目的をまず課題抽出しながら設定し、逆算思考でそれを実現するための道筋をデザインする思考法と言った方がわかりやすいかもしれません。
デザイン思考には様々な流派ともいうべき考え方があります。
デザイン思考の起源は、1987年のピーター・ロウの『デザインの思考過程(Design Thinking)』という著書であるとされています。
デザイン思考とは上記の通り、その活用範囲はデザイナーに留まらないものではありますが、方法論自体はデザイナーの考え方や行動をビジネスで使えるように汎用化されたツールであると言えます。そのデザイナーの考え方や行動といったマインドとは以下のようなものであるといえます。
- 不確実性、曖昧さを受け入れる
- 深く共感する
- 五感をフルに活用する
- 楽しいことをもたらす
- 複雑なことから新たな意味を創出する
デザイン思考のフレームワークを使いこなすポイント
デザイン思考で調べていくと様々な考え方や〇〇流というものが出てきますので、混乱されると思います。(私も実は整理ついていません。)
ここではいくつか有名なデザイン思考の方法論、フレームワークを紹介していきたいと思います。どれもよく聞くものだと思います。
IDEO(アイディオ)
IDEOは1991年に設立されたグローバルに展開するデザインコンサルティングファームです。デザイン思考の研修などを受講すると必ずと言ってよいほど紹介されます。
AppleやPDAのPalm Vなどのデザインで有名ですね。
研修などでよく見かけるのは2000年に放映された、以下のわずか5日間で新しいショッピングカートのデザインを行う様子を撮影した動画です。
楽しみながらチームでデザインしていく様子がよくわかる動画です。
IDEOのデザイン思考のステップは以下の3ステップで整理されています。
- Inspiration
着想Inspiration 着想観察やインタビューを通じ、ユーザーになりきって課題や解決のヒントを得るプロセス
- Ideation
創出Ideaton 創出インプットに基づき、解決すべき真の課題とその解決策を創出するプロセス
- Implementation
実現Implementation 実現解決策の実現方法を立案、ユーザーと共にブラッシュアップしていくプロセス
イリノイ工科大学のデザインスクール(Institute of Design:ID)
イリノイ工科大学は1890年に設立されたアメリカ、イリノイ州シカゴに本校が位置する研究型私立理工系総合大学です。
ここのデザインスクールの享受であるヴィジェイ・クーマーによる人間中心のイノベーション創出を見据えた体系的なメソッドが101デザインメソッド(「7つのモード」と「101の手法」)としてまとめられています。全体の俯瞰図は以下の枠組みとなっています。
- 1目的を見出す
プロセスの最初は変化していく周囲の世界について考えてみること。ビジネスや技術、社会、経済などをチェックし、自分のテーマに影響するトレンドを調べる。このような活動から新しいイノベーションの機会を探る。
- 2コンテクストを知る
コンテクスト=イノベーションを通じて提供するもの(製品やサービスなど)が存在する・存在しそうな環境に影響を及ぼす状況や出来事を調べていく。市場でのポジショニングや協業の状況など。専門家へのヒアリングやSWOT分析するなどの手段が有効。
- 3人々を知る
エンドユーザーやステークホルダーを理解する。アンケート調査やエスノグラフィーを活用し人々を観察しながら、最も価値のあるインサイトを引き出す。
- 4インサイトをまとめる
1~3でわかった事を体系化する。モデル化やパターン化、グルーピングなどで物事を整理し、ツールとしてはベン図やジャーニーマップなどが有効。
- 5アイデアを探求する
創造的で新しいものや急進的なアイデア、考え方といったマインドセットを持ち、コンセプトを探求する段階。明確な価値を持ったコンセプト、ストーリーを考え出す。ペルソナの定義やコンセプトのアウトプットをしていく。
- 6解決策を練る
重要なコンセプトを組み合わせ、実行可能で体系的な解決策の策定に挑むフェーズ。解決策に焦点を充て、ユーザー価値に対して解決策が満たしているかどうかの評価や検証、見直しと中長期的な解決ロードマップの策定などを行う。
- 7製品・サービスを実現する
アイデアを現実世界で形にし、成功させる方法を探る。実際のプロトタイプを作り、ユーザーがそれをどう使い、どう経験するかを検証する。失敗も繰り返させるが失敗にも前向きに向き合い、実現に向けて仮説検証を繰り返す。
スタンフォード大学のd.school
最後に紹介するのはスタンフォード大学の機関Hasso Plattner Institute of Design、通称「d.school」です。
スタンフォード大学といえば、2005年の卒業式で学生に向けてのスティーブ・ジョブズのスピーチ「ハングリーであれ。愚か者であれ」があまりにも有名ですね。
ここではd.schoolが提唱するデザイン思考の5つのステップについて紹介します。
よく見かける図なので以下の図は見た事がある方もいらっしゃると思います。
- 1Empathize:共感<重要>
人々を深く理解する
ペルソナの気持ちになりきり、潜在ニーズの解像度を上げる事が大切です。 - 2Define:問題定義
問題を再定義する
- 3Ideate:創造
アイデアをたくさん出し、組み合わせる
- 4Prototype:プロトタイプ<重要>
早い段階でプロトタイプを作ってアイデアを検討する
正しく相手に伝える事が重要であるため、テストの前にプロトタイプを作成するというこのステップは非常に重要です。 - 5Test:テスト
テストを繰り返し、ギャップを埋める
デザイン思考のフレームワークを使いこなすポイントのまとめ
3つのデザイン思考のステップを紹介しましたが、少し形は違えど、共通項があると思います。
最後に以下をデザイン思考に共通して言える大事な事としておまとめしておきます。
- 人間をよく観察し、インサイトを発見する。それを統合しながら仮説検証を繰り返しブラッシュアップし、精度を高める
- 人間中心の思考を持つ
- 共同型のチームで多様性を発揮する
- 非線形プロセスでステップを進める
- Fail Fastの精神で臨む
コメント
[…] デザイン思考の事例とフレームワーク […]