別記事で大企業が新規事業開発で陥りがちな失敗パターンを読みましたが、身の回りで見かけるものだらけで笑ってみていられませんでした。
文化や環境、制度面での壁は仕方がないにしても人やお金といったリソース的には優位な大企業で新規事業が失敗してしまうのはなぜなのでしょうか?
とりあえずやってみよう!の精神などは非常に大事ですので、大企業の中にもこのマインドを大切にしている会社は多くあります。ただし、新規事業の引き際を正しく判断できないと大失敗に繋がる可能性が高まりますのでこうした失敗を回避するためにも今回は新規事業にまつわる心理的な罠にフォーカスを置いて解説をします。
サンクコスト(埋没費用)とは
新規事業開発に関わらず、何かのアクションをしようとした際、多くの時間やお金などのリソースを投下したアクションについて、引くに引けなくなってしまった経験はないでしょうか?
サンクコスト(埋没費用)とは、どうがんばっても回収できない費用を指します。新規事業開発の場合、もちろんどこかのタイミングでサービスなり事業なりをローンチし、投資したコストを回収するわけなのですが、事業を進める中でこのようなベストシナリオで進められるケースの方が一握りであり、多くの場合、途中で見通しが揺らぎます。先行きが不透明になった場合でも、これまでかけた時間やお金がありますので事業を止める事で完全に無駄にする踏ん切りがつかず、さらに時間とお金を積み重ね、サンクコスト(埋没費用)の額を積み増していきます。このような現象をサンクコスト効果といいます。
この現象は、特に失敗に対して許容度の低い大企業に多く見られると思います。既存事業はコストを投下した分、どれだけのリターンが得られるのかは非常に高い精度で見通す事ができますが、新規事業においては変化も大きく先を正しく見通せる者などゼロに等しいため、既存事業に対するこのような考え方を新規事業に適用する(リターンが得られる事を前提に投資をする)事は非常に危険です。この発想がサンクコスト効果に直結していると言えます。
上記を防ぐためにもサントリーのような「やってみなはれ」精神は非常に大切な考え方かと思いますが、そのチャレンジの仕方については工夫が必要です。
いきなり重い事業計画を多くの時間を割きながら書き上げ、不確実性の高い段階で最初から多額の投資をしてしまう。こうすればするほど自身の判断を正当化したり、既に投下した投資額の回収リスクが増える事への恐怖が増大しますのでサンクコスト効果は益々働く結果になってしまいます。
トップダウンで意思決定される場合も注意が必要です。トップがやれと言っている。トップにやるとコミットしてしまった。こうした場合も特に強烈に引くに引けない状態が醸成されてしまうので、トップダウンでやるにしてもExitの基準やクライテリアをしっかり合意しておく事が大切だと思います。
ちなみに大企業が陥りがちな失敗パターンなどは以下の記事でも紹介しています。
サンクコスト効果の事例1 食べ放題
最近、食べ放題の店が多く見られますので皆さんも一度は利用した事があるかと思います。
それほど高い店でない場合、多くは3000円から5000円くらいかなと思いますが、食べられるメニューと支払う費用の比べっこをすると思います。
いざ食べ放題がスタートするとお皿いっぱいに料理をよそい、普段は食べないくらいの量を「元を取ってやる!」という掛け声の元で無理して食べた経験はないでしょうか?
美味しければよいのですが、まずかった場合でも特に上記のような考えが強く働くと思います。
合理的な選択をするのであれば、この既に支払う事が確定してしまっている3000円から5000円を支払うのに加えて食べすぎによる胃痛や体重増、口に合わない・既に許容量を超える食事に充てる時間など、こうした不快な体験を回避するべくさっさと店を出る方がよいのですが、中々そうはできません。
3000円から5000円を少しでも回収したい(した気になる)ために不合理な選択をしている行動と言えます。
サンクコスト効果の事例2 つまらない映画
最近はAmazonやNetflixなどでサブスクの中で映画を見る事も多いのでこうした映画鑑賞では当てはまらないかと思いますが、自分の足で映画館に行ったときなどはサンクコスト効果が出やすいと言われています。
面白そう!と思った映画に1000円~2000円くらいのお金と、2時間程度の時間を費やすわけですが、冒頭のシーンなどで既につまらなそうと感じる映画に遭遇した事はあると思います。
こうした場合、既に投下した1000円~2000円のお金は諦め、残りの2時間弱の時間を節約する事が合理的な選択かと思いますが、大抵はそのまま見続ける選択肢を選択すると思います。もちろんその後の展開で初期に感じたつまらなさを払しょくする大どんでん返しが起こる事を期待しての選択と思いますが、これも一か八かの選択と言えるでしょう。